ホテル業界の今後の戦略には欠かせない、インバウンドにおける集客対策・接客&館内サービス対策を、他ホテルの事例も交えながら解説します。
目次
インバウンド対策:集客
まず必要なのがより多く集客するための対策です。
海外OTA、SNS、Google map等の様々な集客経路があるため、それぞれの対策を紹介していきます。
海外OTAの活用
インバウンドの集客において最も即効性が高くボリュームを取れるのが、海外OTAです。
Booking.com, Agoda, Expedia, Trip.com あたりが主な海外OTAですが、それぞれのOTAによって得意とする国が違ったり、独自の機能があったりします。
Booking.com(ブッキングドットコム)
Booking.comは、世界最大手のオンライントラベルグループである、ブッキングホールディングスの中核企業で、本社はオランダです。
Booking.comは世界中のゲストから予約が入り、日本人も数多く使っているグローバルOTAなので、インバウンド集客においては最も重要なOTAです。
海外OTAについてはBooking.comとの契約は欠かせません。
そして、本社がヨーロッパのオランダに位置することもあり、ヨーロッパやオーストラリアのエリアからの集客は特に強いです。
以下の画像は、Google における様々なキーワードの検索回数を比較できる「Google トレンド」ですが、イギリスやオーストラリアではBooking.com(青い線グラフ)が他の海外OTAより数多く検索されていることが分かります。
Booking.comは集客力の強いサイトですが、さらに集客力を高める施策として販促機能が付いた各種プロモーションや、「プリファードプログラム」という手数料アップと引き換えに露出を増やせる企画があります。
販促費やADRに余裕がある時期には、これらの施策を積極的に使って販売室数を大きく伸ばしましょう。
「価格は下げられないし販売手数料も増やせないけど何とか露出を増やしたい。。。」という場合は、Booking.com上での価格を値上げし、上げた価格にプロモーションやプリファードプログラムを設定するのもアリです。
Agoda(アゴダ)
テレビCMやYoutube広告を実施する等、日本においても存在感を増しているのがAgodaです。
Agodaはタイのバンコクに本社機能があり、東南アジアや韓国・台湾・香港等の東アジアで高い予約シェアを占めています。
ちなみに、先に紹介したBooking.comとAgodaは親会社が同じブッキング・ホールディングスであり、Booking.comとAgodaは兄弟会社にあたります。
Agodaは何かとトラブルが多いOTAではありますが、アジア圏ゲストの集客に抜群の強みを持っているので、上手く使っていきましょう。
以下のGoogleトレンドの画像からも分かるように、主要海外OTAの中ではアジア圏で強い知名度があります。
特に台湾やタイでは、他のOTAと比べて圧倒的な検索回数ですね。
Agodaは、各種プロモーションや外部集客を強化する広告、表示順位をアップさせるリスティング等の様々な機能があります。
ただ、Agodaは他のOTAや代理店と在庫を共有したうえで、サイト上で販売する等の特殊な販売方法を取っているため、予約通知が施設に届かない、等のエラーが頻繁に起こります。
また、他のOTAに比べてサポートの質は高くありませんので、トラブル対応に時間がかかりがちです。
Agodaを利用するうえでの最大のネックは、このトラブルの多さでしょう。
トラブルを最小限に抑えながらAgodaの集客力を活用する方法としておすすめなのは、シンプルに料金を他のOTAより高くならない様に設定したうえで、あとは余計なオプションを付けないことです。
特に新しい機能にはバグが多いので、なるべく触らない様にしましょう。
ごくシンプルな設定をしたうえで、サイトの集客力にひたすら頼る方法が最も安全です。
Expedia(エクスペディア)
Expediaは、アメリカに本社があるOTAで、アメリカにおけるシェアや知名度はトップです。
Booking.comやAgodaもアメリカ市場には力を入れていますが、Expediaのアメリカにおける存在感は圧倒的です。
しかし、アジア圏はBooking.comやAgodaや各国のローカルOTAが強いため、ユーザー獲得が他のグローバルOTAに比べ弱いです。
アメリカ人のゲストが多いエリアやホテルにおいて、各種プロモーションや販促企画に参加するのが良いでしょう。
また、使い勝手の良い航空券のパッケージ商品も販売できるため、ホテル単体では安く見せたくないけど、お得な料金で販売したい。。。という場合は活用できます。
Trip.com
Trip.comは、中国最大手オンライン旅行会社のトリップ・ドットコムグループが運営する、グローバル向け旅行予約サイトです。
Trip.comは何といっても中国本土ゲストの集客が最大の強みです。
中国はローカル企業のWebサービスが強く、OTA業界においてもグローバル企業がシェアを増やせていません。
世界大のオンライントラベルグループである、ブッキング・ホールディングスも中国本土でのシェア拡大は難しい状況です。
日本においては後発のOTAですが、リアルエージェントの様に一定数の在庫を買い取って販売する企画等、他のOTAにはない独自のプログラムが存在します。
中国本土のゲストに人気の東京・大阪・京都・札幌等の施設では、Trip.comに注力する作戦もありです。
ただ、Agodaと同様に他社の提携在庫をサイト上で販売しており、トラブルも比較的多いOTAなので、販売室数の割合が偏らない様に注意しておいた方が無難です。
SNSの活用
あらゆる業界で集客手段として定着してきましたが、SNSを活用して集客するのも有効な手段です。
インスタグラム
インスタグラムは世界中にユーザーがおり、主な国ではアメリカで1億5千9百万人、インドネシアで9千9百万人、韓国で2千万人のユーザーがいます。
インスタグラムは、写真を使ってホテルや地域の魅力を視覚的にアピールするので、どの国の人であっても魅力が伝わりやすいことがメリットです。
ホテルのインスタグラムアカウントを、インバウンドの集客ツールとして活用しているホテルは増えてきています。
パークハイアット京都は、京都の四季折々の美しい景色や、ホテルの豪華な食事、カップルや友人たちとホテルで楽しむシーン等、インスタグラムでホテルを探している外国人の目を惹く写真を投稿しています。
パークハイアット京都の投稿には英語の文章で説明書きが入っており、外国人が見ても写真の内容が理解しやすくなっています。
また、東京のホテルタビノスでは、ラグジュアリー感を打ち出すシティホテル・高級旅館等とは異なり、独特なデザインの内装や館内のイラスト等、ポップな写真を多く使うことで個性を際立たせています。
同ホテルの投稿は、英語の説明書きに加え #asakusa, #tokyohotel, #mangahotel等、外国人が検索をしそうなハッシュタグが多数盛り込まれており、外国人の認知率が上がりやすいようになっています。
これらホテルの様にインスタグラムを活用することで、「インスタグラムでホテル探し→OTAで予約」や「OTAでホテルを見つける→インスタグラムでホテルをチェック→OTAで予約」といったユーザー行動が発生するため、ホテルの認知率や予約転換率のアップにつながります。
Facebookは月間のアクティブユーザーが29億3千万人(2022年7月現在:Meta公式ホームページより)の世界一利用者の多いSNSです。
ビジネス用のアカウントも作成できるため、インバウンド集客ツールとして活用しているホテルも多くあります。
大阪梅田のシティホテル、ザ・リッツ・カールトン大阪では、レストランで楽しめる食事や、館内のインテリア等、シティホテルならではの高級感が伝わる写真を投稿しています。
ほぼ全ての投稿を日本語と英語で併記しており、海外ゲストがアカウントを見ても楽しめる内容になっています。
東京のホテルニューオータニでは、ホテルの庭園の美しさを際立出せるショート動画「リール」を数多く投稿しています。
日本人向けのキャンペーン投稿は日本語のみの詳しい説明書きを記載し、ホテルの庭園やインテリア等、ビジュアルに訴える内容は日本語・英語を併記する等、投稿内容や目的に応じ、言語を変えて投稿しています。
Naver blog
Naver blogは、厳密に言えばSNSとは異なりますが、韓国の検索エンジンでトップシェアの「Naver」が運営するブログサービスで、韓国マーケティングには欠かせません。
以下は、韓国から来日した観光客に「出発前に得た旅行情報源で役に立ったもの」を尋ねた調査の結果ですが、個人ブログが最も利用されたメディアになっています。
韓国はブログ文化が浸透しており、検索エンジンのNaverで検索すると、ブログ検索結果に表示されます。
以下の画像は、「東京 ホテル おすすめ」と検索した場合ですが、Naverブログが多数表示されます。
ホテルが韓国語のブログを更新するのは難しいですが、ブログで多数のフォロワーを抱えるインフルエンサーにホテルの紹介を依頼することで、ブログでホテルを紹介してもらうことが可能です。
韓国向けのマーケティングを実施している会社等に依頼すれば、有力なインフルエンサーを紹介してもらえることもあるので、韓国ゲストの売上が多いホテルは、是非検討してみましょう。
Weiboは中華圏最大のミニブログサイトで、ツイッターとFacebookを併せた様な機能を持っています。
ユーザー数は2021年現在で8億人とされており、海外のSNSが自由に利用できない中国本土のユーザーが大多数を占めています。
中国本土のユーザーに対するリーチがしやすいため、日本の芸能人やアーティストでアカウントを持っている人も多いです。
写真&短文で投稿ができるため、写真のビジュアルが良ければ、文章はGoogle翻訳でも大きな問題はありません。
ホテル業界では、マイステイズグループがWeiboのアカウントを運用しています。
Facebookやインスタグラムではリーチできない、中国本土のゲストが多い施設は活用してみましょう。
Googleマップの活用
Googleマップのリアル店舗の検索機能は日に日に便利になっており、世界中でユーザーは増え続けています。
世界中では、月間1億5千4百万人のユーザーがGoogleマップを利用しており(2021年現在)、いかに利用者が多い地図アプリかが分かります。
外国人観光客の多くも、ホテルや飲食店、観光地検索等にGoogleマップを活用しており、特に旅慣れたユーザーは、日本到着当日にGoogleマップでホテルを探す、という場合もあります。
Googleマップも集客ツールとして活用したいところですが、GoogleマップにもGoogle検索と同じ様に、ランキングという考え方が存在します。
ランキングが高ければ高いほど、「東京 ホテル」等と検索した際に、よりユーザーが最も目に入りやすくなります。
以下の図はGoogleマップで「東京 ホテル」と検索した際の画面です。
画面の左にホテルが並んでいますが、ランキングが高いホテルがより上位に表示され、ユーザーにクリックされる確率が上がります。
Googleの公式サイトによれば、Googleマップの検索結果のランキングを上げるために重要な要素は3つあります。
- 関連性
関連性とは、ユーザーの検索ワードと、登録しているローカルビジネスプロフィールの関連がどれだけ高いかの指標です。ユーザーの検索ワードを調べたうえで、ビジネスプロフィールにいかに盛り込めるかがポイントとなります。 - 距離
距離とはそのままの意味で、検索ユーザーの位置情報と、ホテルまでの距離がどれだけ近いかです。コントロールできる要素ではないので、対策は特にありません。 - 視認性の高さ
「視認性の高さ」とは、知名度と言い換えられます。有名なブランド名を冠したホテルや、有名な地名やランドマークが付いたホテルは「知名度が高い」と見なされます。また、Googleマップ上の口コミの数や、Googleマップ以外のウェブ上に存在する情報の量等も、知名度に影響します。すぐに実行できる知名度対策としては、クチコミを書いてもらえるようゲストに促す、SNSやブログで情報発信する、等が考えられます。
「関連性の高さ」や「視認性の高さ(知名度)」を上昇させるためには、英語や中国語等、外国語で情報を発信できるとより効果的です。
最近はGoogle翻訳の精度も上がっており、短文であれば違和感のない外国語翻訳ができるので、外国語による発信にもチャレンジしてみましょう。
インバウンド対策:接客&館内サービス
集客だけではなく、接客や館内サービスにおいても、インバウンド対策は重要です。
ホテルの接客・館内サービスが良ければ、リピーター化や良い口コミの増加など、ホテルのビジネスに良い効果が表れます。
多言語対応
多言語対応は、ホテルの満足度向上にとって重要です。
平成29年に観光庁が実施した「訪日外国人旅行者の受入環境整備における国内の多言語対応に関するアンケート」によると、「旅行中に困ったこと」として「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」は回答者の21.8%、「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」は26.1%を占めます。
また、宿泊施設において困った場面としては、「チェックインの際」「日本独特のもの(大浴場等)の 使用方法を尋ねる際」の割合が大きいです。
チェックイン時や、館内設備の使用方法の説明等、フロントにおける多言語対応が特に重要です。
デジタルサイネージの活用
フロントにデジタルサイネージ(大きなディスプレイ)を設置することで、館内の説明を多言語表示できます。
フロントに設置することで、全てのゲストの目に入るうえ、デジタルなので説明内容や種類も後々に変更することもできます。
ホテルサンルートプラザ新宿等では、海外ゲストの増加を受けてデジタルサイネージを設置し、接客負荷軽減・サービス向上に成功しています。
客室タブレットの導入
客室に多言語対応のタブレットを設置し、館内案内、周辺の観光地情報、飲食店案内等をゲストが自分で見られる様にするのも良いです。
タブレットでゲスト自身に疑問解決や情報検索をしてもらえれば、フロントへの連絡も減らせるため、業務負荷軽減につながります。
「変なホテル金沢 香林坊」では、客室タブレットを導入することで、業務効率化とゲストへの付加価値向上に成功しています。
外国人スタッフの雇用
インバウンド割合が高いホテルであれば、外国人スタッフの雇用を積極的に進めるのも1つの手段です。
韓国人ゲストの多い地域、欧米からのゲストが多い地域、中国人ゲストの多い地域等、地域によってゲストの国籍割合は様々ですが、宿泊数に占める割合の高い国のスタッフを雇用できれば、外国語対応がよりスムーズになります。
決済対応
宿泊体験において、スムーズな決済の重要度は高いです。
海外旅行でお金のやり取りが上手くいかず、困った場面に遭遇したことがる人も多いのではないでしょうか。
ゲストが慣れた手段でスピーディーに決済できる体制を整えることで、ゲストの満足度も上がります。
クレジットカード決済
クレジットカード決済はどのホテルでも当たり前になってきましたが、地方には対応しているカード会社が少ないホテルもあります。
VISA, Mastercardといったトップブランドのカード対応は当然のこととして、中国人向けの「銀聯」や、台湾で意外と利用者数が多い日本初のJCB、そしてアメリカ人の利用者が多いAmerican Expressあたりは抑えておきましょう。
モバイル決済
モバイル決済は特に中国人が多く利用します。「Wechat(ウィーチャット)」「Alipay(アリペイ)」を導入しておけば、中国人ゲストの決済がスムーズになるでしょう。
また、台湾では「JKOPAY」、韓国では「Liiv」といったモバイル決済サービスが普及しており、これらの決済手段が使えると、クレジットカードを持たないゲストにも喜ばれるでしょう。
まとめ:集客・接客・館内サービスでインバウンド対策を取りましょう
今回は、インバウンド対策について解説しました。
インバウンド対策は、集客・接客・館内サービスと多岐に渡るため、短期間で全て充実させることは難しいです。
自社のホテルでできるところから、少しずつ取り組んでいきましょう。
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