ホテル・旅館の人件費削減方法を解説します~業務見直し・システム導入でより効率的なホテル運営を

ホテル・旅館は、販売できる部屋数に限りがある事業の性質上、売上の伸びしろに上限があり、コスト削減は利益創出にとって重要です。

そして、コストの中でも大きな割合を占める人件費の適切なコントロールは、ホテル経営の肝です。
今回は、ホテルにとって重要な人件費の削減方法を解説します。

人件費削減が重要な理由

人件費削減が重要な理由を理解するために、ホテルのコスト構造を見てみましょう。

以下のグラフは、平均的なホテルの売上・費用(経費)・利益の内訳を示しています。
グラフの一番左の青い棒は売上、左から二番目のオレンジ色の棒は人件費を表しています。

平均的なホテル業における損益
出典:「日本旅館協会:令和元年度営業状況等統計調査」より作成

ご覧いただくと分かるとおり、人件費はあらゆる費用の中で最も高い割合を占め、費用のうち約40%が人件費です。

したがって、人件費が過大になると、費用の総額が一気に増え、黒字経営が危うくなるのです。
人件費の削減は、ホテルの費用削減の最重要ポイントであり、経営の肝であることが分かります。

人件費の削減方法

ここからは、以下の4つの観点より、人件費の削減方法について具体的に解説します。

  • スタッフの働き方改善
  • IT・システムによる業務の効率化
  • 無駄な業務の削減
  • 業務の外注

スタッフの働き方改善

ひとつ目は、スタッフの働き方の改善です。
今までの働き方をより効率的かつ、スタッフがスムーズに働ける様に改善することで、残業代の抑制、定着率アップによる採用コスト削減を図ります。

スタッフのマルチタスク化

スタッフのマルチタスク化は、ホテル・旅館をより少ない人数で効率的に運営するために有効な施策です。

マルチタスク化のメリットを理解するために、以下のホテルのシフト例をご覧下さい。
このホテルは、フロント、料飲サービス、調理を正社員3名が分業で担当しており、客室清掃はパート従業員が担当する4名体制です。

マルチタスク化
一般的なホテルのシフト例

このシフトの問題点の1つ目は、フロントスタッフに仕事が殆どない手待ち時間が発生するため、余分な人件費が発生する点です。

2つ目の問題点は、料飲サービス、調理それぞれのスタッフに、長時間の休みを取る「中抜け」の時間が発生する点です。

中抜けは勤務時間外とはいえ、数時間後に再び仕事が始まる休憩時間であり、従業員からすれば心が完全には休まらない時間です。

中抜けの様な休憩の取り方は、公私をきっちり分けて休みを取りたい現代のスタッフには評判が悪く、退職の原因になります(ホテルの退職理由として長時間拘束や不規則な生活リズムを挙げる人は多いです)。

以上の様な分業制による働き方の問題点を解決するのが、マルチタスク化です。

スタッフが客室清掃、フロント、調理、試飲サービス等の各種業務をひと通り行える様になれば、フロント業務が落ち着いた時間に客室清掃へ、客室清掃が終われば調理へと、各種業務が忙しくなる時間に合わせて業務内容を変えることで、無駄な手待ち時間を減らすことができます。

無駄な手待ち時間が無くなれば人件費を削減できますし、一人が複数の業務をこなせる様になれば、最小限の人数でホテル運営が可能です。

また、専門業務の時間に合わせて「中抜け」をする必要が無くなるため、「8時間+1時間休憩」といった他の業界と同じ働き方ができる様になり、休みもまとめて取ることができます。

この様な労働環境の改善はスタッフの定着率アップに繋がり、採用・育成コストの削減になります。

更にマルチタスク化には以下の様なメリットもあります。

  • スタッフが施設やサービス全体を理解できる様になるため、ゲストの要望にすぐに応えられ、顧客満足度が上がる
  • ホテル全体の業務を把握した、経営能力を持つ人材が育つ
  • 特定のスタッフしか分からない業務が無くなるため、休職・退職時に仕事に穴が空かない
  • 人手不足の地方で人材が採用しやすくなる

ホテル業界では、星野リゾートがスタッフのマルチタスク化を進めており、各種メディアでもメリットが紹介されています。
興味のある方は調べてみましょう。

業務のマニュアル化

業務の属人性を無くし、誰でもできる様にマニュアル化することで、業務の効率化・労働時間の削減に繋がります。

マニュアル作成においては、文章だけでなく写真やイラストを使うと、誰にとっても分かりやすくなります。
以下は朝食の配膳マニュアルの例です。

配膳マニュアル例
配膳マニュアル例

また、清掃等の作業の種類が多い業務は、チェックリストを作成することで作業の抜け漏れを無くすことができます。

チェックリストを作成する際は、作業を一覧化するだけでなく、使用する道具等も記載しておくと、経験が浅いスタッフも迷わず作業しやすいです。

清掃マニュアル例
清掃マニュアル例

最終的には、全業務のマニュアルを集めたマスターマニュアルを作成し、必要に応じて追加・改善できる体制を作るのが理想です。

また、マニュアルは経営層が一方的に作るのではなく、現場のスタッフが知恵やアイディアを出しながら作ることで、マニュアルに則って仕事をする雰囲気も産まれやすいです。

働き方改善・効率化を継続的に行える仕組みの設計

働き方の改善・業務の効率化をスタッフが自発的に行う仕組みを作ることも、無駄な労働時間の削減やスタッフの定着率アップによる人件費削減に繋がります。

とあるホテルでは、職場に「目安箱」の様な箱を作り、誰もが思い付いた業務改善のアイディアを書いた用紙を投函できる様にしています。

どんな些細な事でも、箱にアイディアを投函したスタッフは会社から100円がもらえるルールになっています。

このルールは、100円に釣られてスタッフがアイディアを出す事を狙うのではなく、どんな些細な思い付きでも会社はそれを受け止め対価を渡しますよ、という会社の姿勢を見せることで、スタッフの自発性を高めることが目的です。

同じ様な取り組みは、日本一のホワイト企業としてメディアでも取り上げられていた、「未来工業」でも実施されていた様です。

他にも、優れた業務効率化プランを起案したスタッフを全社的に表彰する等の取り組みをしているホテルもあります。

IT・システムによる業務の自動化

ホテルによって取り組みの差が大きいのが、IT・システムによる自動化です。
労働集約型ビジネスであるホテル業界ですが、自動化できる業務は多々存在します。

機械ができる仕事は機械に任せて人件費を削減し、スタッフは人間だからこそできる業務に注力しましょう。

チャットボットによる顧客対応

ホテル向けおすすめチャットボットの比較~AI活用でホテルの業務効率化、人手不足解消に役立ちますの記事でも紹介しましたが、最近はホテルのチャットボット導入が増えています。

ホテルにとって、多くの時間や労力がかかる業務が、ゲストからの問い合わせ対応です。

問い合わせをチャットボットが自動対応してくれれば、スタッフの労働時間や、必要な配置人数が減り、人件費を削減できます。

チャットプラスは、初期費用0円、月額1,650円から利用できるリーズナブルなチャットボットでありながら、問い合わせの対応のみならず、問い合わせ客のデータ収集や、チャットログの分析等も可能です。

星野リゾートの「界 阿蘇」の公式ホームページ等で、実際にチャットボットを利用できるので、興味のある方はホームページを覗いてみましょう。

チャットプラスの評判・使ってみた感想・料金・導入事例を紹介します」の記事も併せてご覧下さい。


自動精算機によるチェックイン・アウト

自動精算機の導入により、チェックイン・アウト時の業務を自動化するのも有効です。

今の時代、多くの人を雇ってフロントに何人ものスタッフを常駐させ、人が直接清算業務を行う必要はありません。

コロナ禍の影響もあり、非接触の清算手段はますます求められる様になりました。

自動精算機を導入することで、スタッフによる清算業務を無くし、フロントスタッフの人員や稼働時間を最小限にできます。

特に、ゲストが朝の同じ時間帯に集中し、スタッフとゲスト双方の時間を浪費してしまうチェックアウトを自動化することで、人件費の削減と顧客満足度アップの両立ができます。

ホテルの経費削減方法を、具体的なアイディアを交えて解説しますにも詳しく書いているので、併せてご覧ください。

鍵の受け渡し無人化

多くのホテルで機械ではなく人が行っている業務のひとつが、フロントでの鍵の受け渡しです。
鍵の受け渡しは夜間や早朝も対応するため、ホテルにとっては長時間にわたって人員を配置する必要のある業務でした。

しかし近年では、鍵の受け渡しを無人化できるホテル向けの様々なサービスが登場しています。
代表的なサービスがスマートロックです。

スマートロックとは、暗証番号やスマホ等の電子機器を通じて、施錠や解錠を行う鍵の事です。

金属製の鍵やカードキー等の物理的な鍵を使わないため、鍵の受け渡しや預かりのための人員配置は不要となり、人件費を削減できます。

また、宿泊者による鍵の紛失や持ち帰り、物理鍵やカードキーの閉じ込み・締め出し、鍵の再発行や錠前交換の出費も防げます。

その他にもKEY STATION等の、ゲストがホテル近くのコンビニで鍵の受け渡しができるサービスもあり、東京を中心とした関東一円で徐々に利用者が増えています。

ロボット掃除機の導入

ロボット掃除機は家庭向けにかなり浸透してきましたが、業務用のロボット掃除機もコロナ禍による衛生管理需要を背景に利用が急増しています。

掃除の道順をシステムで記録し、人間と同じ通りに掃除をしてくれる床拭きロボットや、危険な高所や外窓を掃除してくれる窓拭きロボット等、様々なロボット掃除機があります。

掃除をロボットに任せることで、人間は他の業務を同時並行で進めることが可能になり、人件費を削減できます。

宿泊台帳のIT化

予約管理はホテルにおいても自動化、システム化がかなり進んでいる分野ではありますが、宿泊台帳を紙ベースで管理しているホテル・旅館もまだまだあります。

紙ベースの管理は、作業に時間がかかるだけでなく、情報の紛失や引継ぎ漏れ等、ミスの温床にもなります。

IT導入補助金等、ITツールの整備に必要な費用の1/2~1/3を政府が補助してくれる制度もあり、政府もITを活用した業務効率化を後押ししています。

ホテルの予約管理システムのメリットや種類は「ホテル管理システム、PMSとは?おすすめPMSを比較しました」の記事でも紹介しているので、こちらをご覧いただいたうえで宿泊台帳のIT化を進めましょう。

参考ページ:IT導入補助金2021(一般社団法人 サービスデザイン推進協議会)

業務の外注

正社員の採用や雇用維持は大きなコストであるため、正社員を雇わずに外注で捌ける仕事は、他社に外注するのも有効です。

インターネット集客の外注

ホテルのインターネット集客全般をホテル専門のネットコンサルタントに任せることで、正社員雇用にかかる人件費を削減できます。

ホテル分野のネットコンサルタントは、様々な種類の会社がサービスを提供しており、OTAの代理運用に特化した会社、ネット集客からリーフレット等の販促物制作までカバーする会社、公式ホームページ集客に強みを持つ会社等があります。

地方都市のホテルや小規模のホテルは、インターネット集客に精通した人材の確保が難しい事情もあり、ホテル専門のネットコンサルタントに集客を頼っているケースが多いです。

以下に代表的なネットコンサルタント会社を記載しているので、問い合わせてみましょう。

  • 宿力(OTAの活用に強い)
  • プライムコンセプト(ネット集客~総合コンサルまでカバー)
  • 宿楽(ホームページ制作に強い)

人事・労務・経理等のバックオフィスの外注

人事・労務・経理等のいわゆるバックオフィス業務は、非常に重要ですが直接お金を生む業務ではありません。

これらの業務を担う社員のコストが負担となっている場合は、外注を検討してみましょう。

バックオフィス業務の外注サービスは、人事・労務・経理等の各分野ごとに様々なサービスが提供されています。

外注サービスを使うメリットは人件費削減だけではなく、業務の属人性排除、リモートワーク化の促進、プロセスの可視化等もあります。

以下にホテルでも利用できるバックオフィス業務の外注サービスを記載しているので、問い合わせてみましょう。

無駄な業務の削減

かつては必要だったが今は必要無くなった業務、時間や手間がかかる割に売上にはつながらない業務等、無駄な業務は無くしていきましょう。

無くすべき業務はホテルのグレードや運営形態、規模によって様々ですが、以下に例を紹介します。

集客力の弱いOTAの管理業務

じゃらん、楽天トラベル、Booking.com、Agoda…等々、様々なOTAをホテルでは運用しています。

もしもこれらOTAの管理業務に大きな時間が割かれている場合、集客力が最も強いOTAの管理に時間や費用の大半を割き、集客力が弱いOTAは最低限の在庫・料金を流すだけに留めましょう。

多くのOTAは、予約数や良い口コミが増えれば増えるほど、表示順位が上がり、更に予約数や口コミが増える仕組みになっています。

予約が増える→(良い)口コミが増える→予約が増える→口コミが増える…

以上の好循環を作ることが大切です。
そのためには、特定のOTAに特化してプラン管理・広告費投下した方が、時間や費用の効率が高いです。

人件費や広告費にゆとりがあるホテルであれば、全方位的に時間や費用を使っても問題ありませんが、リソースが限られているホテルは特定のOTAに特化し、運用効率を上げましょう。

現地払い

宿泊代金の現地決済を廃止すると、現金やり取りや管理にかかる時間を削減できます。

コロナ禍をきっかけに、非対面・非接触のサービスへの需要が増加しており、フロントで支払いを行わなくて良い事前決済は、ゲストからも求められています。

じゃらん等のOTAも「事前決済限定割引」を推奨する等、事前決済の予約に特典を付けるサービスも現れています。

現地決済を廃止すると、予約数の減少が懸念されるかもしれませんが、決済手段はホテル予約の決め手とはなりませんので、廃止しても大きな問題にはならないでしょう。

大人数のフロント待機

大規模な施設では、チェックインが忙しくない時間にもフロントに3名以上の人数で常に待機しているケースがあります。

この様な待機時間は売上を生まず、パソコンに向かって他の仕事に集中できる状況でもないため、無駄な時間です。

チェックイン・アウトが立て込まない時間帯のフロントは、1名~2名の最小人員の配置とし、他のスタッフは別の業務に携われる体制にしましょう。

コスト意識が高い大手ビジネスホテルチェーンの「スーパーホテル」では、チェックイン時間前はフロントに人を置かず、ゲストが来館した際に呼び鈴ボタンを押してスタッフを呼ぶ店舗もあります。

ボタンを押せばすぐにスタッフが出て来る体制になっているため、ゲストからしても特にストレスは感じません。

高級シティホテルや高級旅館では、スーパーホテルの様な体制をとることはさすがに難しいですが、フロントの待機人数を今一度見直してはいかがでしょうか。

清掃費の削減

清掃は完全にシステムによって自動化することが難しく、多くの人件費が必要な業務のひとつです。
清掃方法や清掃会社は定期的に見直し、クオリティをキープしたまま人件費を削減しましょう。

清掃を内製化する

清掃を外注している場合、自社の社員やアルバイトで清掃を完結できる様に内製化することで、外注にかかる費用を削減できます。

先にも紹介した星野リゾートは、社員のマルチタスクが基本であるため、ひとりの社員がフロント業務も清掃業務もこなせる体制を整えており、清掃の外注費を抑えられています。

スタッフの採用や教育等、コストと時間が最初にかかりますが、長期的には外注にかかる人件費を削減できます。

清掃の外注先を、相見積もりを取って見直す

清掃の内製化が難しい場合は、相見積もりを取って外注先を見直すのも有効です。
清掃は、立地や部屋の広さ等によって料金が変動するため、ネット上での料金比較が難しい業界です。

しかし、近年では立地、部屋数、広さ等の条件をサイト上で入力すると、複数の業者から一斉に見積もりが届く便利なサービスをあります。

これらのサイトを使えば、現在の清掃業者との料金を簡単に比べられますので、是非一度使ってみましょう。
以下のサイトでは、清掃業者の簡単・一括見積が可能です。

清掃業者探しは【簡単・無料・厳選優良業者】のEMEAO!

今回は、人件費の削減方法について解説しました。宿サポートでは、ホテルの経費削減もサポートしています。お問い合わせは以下のボタンからどうぞ。

以下の記事では、他の経費削減方法を紹介しておりますので、併せてご覧下さい。

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