レベニューマネジメントとは何か?ノウハウを学びましょう

「この日は部屋をいくらで売ろうかな・・・周りに競合ホテルも増えてきたし悩むなあ」
レベニューマネージャーの皆様は、客室の販売価格の決定に日々悩まれていることと思います。

地域のイベント開催が決定したり、競合の新規ホテルがオープンしたりと、外部環境が刻々と変化する中での価格決定は非常に難しいことですが、レベニューマネジメントを着実に行うことで、収益を最大化することが可能です。

今回は、レベニューマネジメントについて解説します。

レベニューマネジメントの基本

レベニューマネジメントとは、「需要予測を基に、販売に適切な制限をすることで利益を最大化する手法」と定義できます。

ホテルは、ゲストが少ない閑散期でも、ゲストが押し寄せるハイシーズンでも、常に在庫の最大数(=客室の数)は一定です。

ゲストが少なくなりそうだからといって客室数を急に減らしたり、逆にゲストが押し寄せる見込みがあっても客室数を増やすことはできません。

また、当たり前ですが今年の3月3日チェックインの客室は、今年の3月3日を過ぎてしまったら二度と販売することはできず、在庫を翌日以降に持ち越すことができません。

1.在庫の最大数が一定であること 2.在庫の持ち越しができないこと の二つがホテルビジネスの大きな特徴です。

この二つの特徴があるため、製造業等のビジネスと異なり、商品の増産や減産等による在庫数調整でマーケットの需要に対応し、利益をコントロールすることができません。

ホテルビジネスでは、価格コントロールや販売チャンネルの選択等の「レベニューマネジメント」が利益最大化のために重要なのです。

レベニューマネジメントの具体的な方法

レベニューマネジメントの重要性が理解できたところで、具体的な方法を見ていきましょう。

需要予測

正確な需要を予測することは、正確な販売室数・売上予測に繋がります。
そして、正確な売上予測は、ホテルのビジネスにとって極めて重要です。
理由は以下の通りです。

1.正確な売上予測ができると、客室・レストラン等のスタッフ人数を適切に配置できます。
スタッフを適切に配置することでゲストサービスが向上し、顧客満足度が上がります。

2.正確な売上予測ができると、ホテルの備品や食品等の発注量が適切になり、過剰発注や発注不足による損失を防げます。

3.正確な売上予測ができると、ホテルのオーナーや経営者が将来の利益を予測できるようになります。
彼らが利益を予測できることで、ホテルをより良くする施設・人員への投資が適切に行われます。

以上の様に、需要・売上予測はとても重要です。
そして、需要予測には過去・現在・将来のデータが不可欠です。

過去のデータ

レベニューマネジメントには、過去のデータの精査が重要です。
例を挙げて見てみましょう。

あなたは客室数300室のホテルのレベニューマネージャーで、RevPARの最大化がミッションです。

あなたはレベニューマネージャーとして、ホテルの各種データを日々集約し、手元には過去10週間の曜日毎の平均稼働率、平均ADR、平均RevPARデータが一覧化されています。

曜日毎の各種指標平均値
曜日毎の各種指標平均値(単位:円)

さて、ある日代理店から、3週間後の木曜日にADR:9000円にて150室の予約をしたいと連絡がありました。
あなたはこの予約を受けるべきでしょうか?
過去のデータから判断してみましょう。

ステップ1:代理店の予約を受けなかった場合のRevPARを推測する。

他に情報が無い場合は、未来のRevPARは過去のデータから推測します。
この場合は上の図の木曜日のデータより、予想RevPARは10,416円と考えます。

ステップ2:代理店の予約を受けた場合のRevPARを推測する。

代理店の予約を受けた場合、まず150室は9,000円で販売されます。
この150室のRevPARは以下の通りです。

150室×9,000円÷300室=4,500円

そして、残りの150室は過去データの木曜日の平均ADR(=12,400円)より、12,400円で販売できると仮定します。
150室を12,400円で販売した場合のRevPARは以下の通りです。

150室×12,400円÷300室=6,200円

以上より、最終的な予想RevPARは以下の通りです。

4,500円+6,200円=10,700円

ステップ3:代理店の予約を受けなかった場合と、受けた場合のRevPARを比較する。

さて、ステップ1と2で予約を受けなかった場合と、受けた場合の予想RevPARが以下の様に計算できました。

受けなかった場合・・・10,416円

受けた場合・・・   10,700円

両者を比較すると、受けた場合の予想RevPARが高いことが分かります。
つまり、今回のケースでは代理店の予約を受けた方が、最終的なRevPARは高くなる可能性が高いのです。

いかがでしょうか? 過去のデータ精査により、根拠を持ってレベニューマネジメントの判断が下せることがお分かりになると思います。
過去のデータは、未来の収益を最大化させる大切な道標なのです。

現在のデータ

現在のデータも、需要予測には重要です。
特に重要なデータは、以下の5点です。

1.予約済客室数

2.ブロック客室数(主に団体用)

3.予約総数(1と2の合計)

4.販売可能客室数

5.ADR

これらのデータ基に、例としてあるホテルの予約状況の一覧を以下に作成しています。

データから何が読み取れるでしょうか?

予約状況の一覧

データから読み取れる要チェックポイントを赤字で示しています。
まず、12月6日は予約総数が310と、総販売可能客室数300を10上回っており、稼働率は103%となっています。

通常はチェックイン日が近づくにつれ、キャンセルが出るためオーバーブッキングとなる可能性は低いですが、注意しておくべきです。
また、需要に対して料金が安すぎる可能性もあります。

そして、Ⅰ2月7日~8日は総販売可能客室数が280と、通常時より20低くなっています。
客室の改装や点検等があると、通常時より販売できる部屋数が減ることがあります。
どのタイプの部屋が売れないか確認し、オーバーブッキングに注意しましょう。

12月12日は、予約済客室数が既に250もあります。
この様なピンポイントの予約増は、イベントや台風予報等の影響が考えられます。
地域のニュースをチェックし、必要に応じて残室の料金を上げる等、レベニューを最大化しましょう。

12月13日は、稼働率も87%と高いうえにADRが15,000円もあります。
2名以上利用の予約が多くなっている可能性がありますので、予約経路ごとのDOR(同伴係数)とADRをチェックし、それぞれの数値が高い予約経路への部屋割り当てを増やせないか検討しましょう。

最後に12月14日は、80ある団体ブロック客室数に注目です。
団体は予約が落ちると、一気にホテルの予約数が減るため、団体に過度に依存するのはリスキーです。
個人ゲストの予約数を早めに伸ばし、団体予約がキャンセルされるリスクを軽減しておきましょう。

以上で紹介したのは、現在のデータとして見るべきポイントの一部であり、宿泊部門以外の売上(宴会やウェディング、大型の会議等)については省いています。

他にも需要・売上予測に関係するデータは多く存在するため、常に周囲にアンテナを張っておきましょう。

未来のデータ

未来のデータは、当然のことながら需要・売上予測に重要です。
未来は地域イベント、競合の価格、気象、政策・・・等、ありとあらゆる要素に影響されるため、全てを把握することは不可能ですが、少なくとも以下のデータは把握しておく必要があります。

・予約に影響を与える地域や国のイベント

・競合ホテルの新規開業や閉業情報

・地域の気象情報

・飛行機や電車、高速道路等の交通状況

未来は不確実なことが多いですが、可能な限りの高い精度で需要・売上予測をすることは重要です。

重要な理由はいくつかありますが、前述の通り将来の需要や売上の見通しが立つことで、ホテルへの設備投資や採用等の計画が適切に立てられることも、大きな理由の一つです。

大手チェーンホテルは、需要・売上予測の精度を上げることで、新規出店や改装等の将来の業績アップをもたらす投資を無駄なく行い、更に業績を伸ばしています。

在庫管理

在庫管理とは、ホテルの様々な種類の客室に対し、価格や販売条件を設定することです。
適切な在庫管理を行うためには、ホテルの客室ごとの違いを理解しておくことが必要です。

レベニューマネジメントを行う上で、頭に入れておくべき客室の主な要素は以下の通りです。

客室種類と面積

当然のことながら、広い部屋の方が狭い部屋よりも価値が高く、料金もより高く設定されます。
また、部屋が広いと価値や料金が高くなるだけでなく、清掃時間がより長くなる、備品の補充が多くなる等、狭い部屋に比べコストも上がりやすいです。

レベニュー、RevPARといった売上に関する指標だけでなく、GOP等の利益に関わる指標も重視している場合は、広い部屋の販売にかかるコストにも注意しましょう。

位置

同じ客室タイプであったとしても、ホテルによっては客室の位置によって価値が異なる場合があります。

例えば、山の中にあるリゾートホテル等では、見晴らしの良い上層階の客室の方が、1階にある客室よりも高い価値があります。

逆にビーチリゾートでは、より海に近く、海岸の美しさが望める低層階の客室の方が、高い価格が受け入れられるケースがあるでしょう。

また、大規模な複合施設と一体化したリゾートホテルでは、レストランや大浴場等に近い客室が価値があるかもしれません。

レベニューマネジメントに際しては施設の客室の位置を詳しく確認し、特別な位置にある客室には、価値に見合った価格を付けることで、収益を最大化することが可能です。

価格管理

価格管理はレベニューマネジメントにおいて重要です。
RevPAR、レベニュー、稼働率等、達成するべきKPIは時と場合によって違いますが、いずれも価格管理がポイントとなります。

レベニューマネジメントの成功の定義を確認する

価格管理において最も大切なことは、レベニューマネジメントの成功の定義を確認することです。
ホテル全体の方針や目標と照らし合わせ、

「どのKPIを」(RevPAR ?, ADR ?, 稼働率? )

「どのくらいの期間で」(年間?半期?)

「どの程度の数値に」(年間稼働率80%、ADR12,000円)

すれば良いのか、支配人や担当者に確認するのです。
当然、達成すべきKPIは複数あると思いますが、全てを達成するのは非現実的なケースもあるので、KPIの優先度も付けるべきです。

この成功の定義を会社やホテルのスタッフで共有できていないと、Aさんは稼働率を上げるために販売価格を下げたがるが、BさんはADR重視のために割引を一切しない・・・等のちぐはぐな事態が起きがちです。

成功の定義は最初に確認、共有しておきましょう。

価格変更のポリシー

価格変更のポリシーについても、最初に確認しておきましょう。
ここで言うポリシーとは、主に以下のことです。

・価格変更の頻度(毎日? 週1回?)

・直前の値下げを許容するか

・公式HPより安い価格を他サイトで出すことを許容するか

このあたりは、ホテルによって方針が異なります。
伝統的なシティホテルでは、価格変更は週一回程度で、直前の値下げは行わず、公式HPより安い価格は許容しない、というホテルも多いです。

宿泊特化型のビジネスホテルでは、需要に合わせて毎日価格を大きく変動させ、目標稼働率の達成のためには、直前の値下げもいとわないホテルもあります。

一般的に望ましいとされるのは、精度の高い需要予測に基づき先の日程ほど安い価格を設定し、直前に近づくほど価格が上がり、頻繁に価格変更を行わずに目標の稼働率とADRを達成する・・・というものです。

どの様な戦略を取るにせよ、価格変更のポリシーはスタッフで共有しておきましょう。

ピックアップを見る

ピックアップとは、特定の日や期間における、予約の増加 or 減少の数のことです。例を挙げて説明します。
以下の表は、1日間における予約の増加数とキャンセル数の合計(ピックアップ)を、宿泊日別に示しています。

ピックアップ

5月10日は新たな予約が5つ入り、キャンセルが2つ出たため、+3と表記されています。
この場合、5月10日のピックアップは+3となります。

ピックアップを日々確認することで、マーケットの変化に気づきやすくなります。
予定されていたイベントが中止になった、地元の大学の受験日程が発表された、1週間後に台風の上陸が予想されている等、様々な要因でピックアップは変動します。

ピックアップを見ることで、今マーケットで何が起きているかを知り、価格の調整に役立てることができます。

ブッキングカーブを作る

ブッキングカーブとは、特定のチェックイン日の客室販売ペースを可視化したグラフです。
下のグラフは、横軸をリードタイム(チェックイン日までの日数)、縦軸を累計販売室数とした、200室のホテルのブッキングカーブです。

ブッキングカーブ

グラフの左に進むほど、近いリードタイムを表し、グラフの上に進むほど、累計販売室数が多いことを表しています。

また、灰色の折れ線は去年の同時期の販売数を表しており、オレンジの折れ線は今年の販売数を表します。

灰色の線とオレンジの線を見ることで、今年と去年の販売ペースの差異が分かるため、今年のペースが順調なのか、それとも遅れてしまっているのかが一目で分かります。

順調もしくは早いペースで売れていれば、値上げやその他の販売制限を検討する余地があります。
もしも販売ペースが遅ければ、値下げが必要となるかもしれません。

ブッキングカーブを確認することで、理想と現実の差が一目で分かり、対策も打ちやすくなります。

競合分析をする

ホテルの価格調整は、自社の目標数値と現実の数値を比べながら行うのが基本ですが、競合ホテルとの比較も必要です。

近隣にホテルが数軒しかない場合は別として、都会には数多くのホテルが存在し、どのホテルが競合となるかの選定が難しい場合もあります。

比較対象とする競合ホテルの選定は、以下の基準で選ぶのが良いでしょう。

・立地が近い(徒歩圏内)

・ビジネスマン、観光客等、想定するゲストの層が似ている

・ホテルの仕様が同程度

・通常時の価格帯が近い(±30%程度)

以上の条件に当てはまるホテルは競合となる可能性が高いので、OTAや社内のマーケティングツール等でおおよその価格を把握しておきましょう。

価格勝負を挑む場合も、そうでない場合も、競合の価格をきちんと把握することで、より精度の高い判断ができます。

レベニューマネジメントについての説明は、今回の記事では以上となります。
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